ファッション/表層としての池田亮司

+/−[the infinite between 0 and 1]Ryoji Ikeda東京都現代美術館)をみてきました。
第一室にモノリス的な金属塊があり、細かい数字がびっしり。左上を見ると、3.14159265....とあったので、そうか、円周率か、と。
第二室はプロジェクター10台から同じ映像。同様に、数字がびっしりなので、これも円周率か、と思って見るうち、10台がそれぞれ異なる映像を映すようになったので、これも何か意味があるのか、と凝視したのですが、どうもよくわからず、、、。Hydrogen、KB、というのがわずかに読めた情報でした。水素?データ量?あと、星の名前らしきものもありました。いかんせん映像がはやいのと、細かいのとで、きっと読み取ってもらおうとは思っていないのだろう、という印象でした。3つ目の作品は3台の大きなプロジェクターで壁全体を照らしていて、内容も、部屋も2つ目の作品と一続きになっていて、非常に贅沢な空間の使い方になっていました。音のほうは、単純なサイン波やホワイトノイズなどの組み合わせで、何かアルゴリズムがあるのかもしれませんが、特にわかりませんでした。以前、オシロスコープ池田亮司の曲の波形を見たところ、それがきれいな立方体になっていたことを思い出しました。そういう原理で作っているのか、と。もっとも、聴いている段階ではそれは関係ないわけなので、その曲が実際に発している、シャー、とかピーといった音に対して、私が何か感想を持ったとしても、それはごく表層的で無意味になのかもしれない、と思いました。つまり、作るプロセスがほぼブラックボックス化されている状態の作品で、我々には表層だけが与えられているような。
地階では、靴を脱がされて床に何か敷いてあるところに通されました。白っぽい、重厚な塊にまた細かい数字がびっしり。左上には2.7182818284....。さっき調べたら、自然対数の底(e)別名、ネイピア数でした。もう一つの作品、長いフィルムに細かい数字がずらー、とう作品も2.718...だったので、きっとそうなのでしょう。とはいえ、私はその場では分からなかったので、若干消化不良のまま次の間へ行くと、同様の、細かい数字がびっしりの板がずらー、と11枚展示されていたのですが、私の背丈では板の左上が見えず、何の数字かはわかりませんでした。何の数字かわからなければ、その板はなんだか「雰囲気だけで」表層的に判断されることにならざるを得ないと思うのですが、それで良い、と判断したのだろうと思います。題名がヒントだったりするのでしょうか。私には分からないですが。もっとも、分かったところで別の問題が生起するだろうとは思います。円周率をびっしり書いたから何なのか、とか、自然対数の底をびっしり書いたから何なのか、とか。しかもそれぞれ、素材の大きさに規定されて、途中までしか書かれていないわけなので、書き尽くしてある、とも言えません。
最後の作品は、7個の大きなスピーカーから、それぞれ単純な波形の音が出ていて、それぞれか干渉しあっていたり、鑑賞者が居る場所や歩く速度によって聞こえる音が変わる、といった感じのものでした。アイデアとしても、手法としてもたいへん古典的です。雑音抜きで体験したいような、わりとデリケートな作品に思えたので、靴を脱がされたのはこのインスタレーションのためだろう、と思いましたが、後ろから外国人の一団がファック!ファック!とか言ってどたばたしていたのであまり関係ありませんでした。
まあ全体的に、「表層しか与えられていない感」が強くて、しかもその表層がわりとスタイリッシュに提示されているので、つい、カッコいい!とか言ってしまいそうですが、言ってしまうとしたらそれはファッションとしてだろうなぁ、と思いました。圧倒的なのはあくまで表層であり、中身はからっぽなのです。偶然かもしれませんが、今日の鑑賞者にはおしゃれさんが多くて、蛍光ピンクがスパーン、とか、ラメラメの鞄背負っています、とか、帽子がオレンジです、といった、ファッショナブル?な人が見受けられたのもあながち偶然ではないかもしれません。
あともう一点、展覧会のタイトルについて。+/−[the infinite between 0 and 1]、というのが展覧会のタイトルで、それ自体については特に説明がなかったのですが、円周率とネイピア数に関して言えば、どちらかというと[the infinite between 2and 4] なんじゃないかと思いました。それとも、私が左上が読めなかった作品が、0と1のあいだにかんするものだったのでしょうか?しかしどこにも説明はないし、展覧会カタログには説明してあるかもしれないけれど、もし知っておいて欲しいことだったら展覧会会場内に書くだろうし、いやしかし、とか、円周率のように割り切れない気持ちのまま、けっきょくカタログは買わずに清澄白河をあとにしました。