ヴンダー・カマーとしての現代美術

「万華鏡の視覚―ティッセン・ボルネミッサ現代美術財団コレクション」(森美術館)を、見てきました。


2008年2〜4月にあったUBSアートコレクションによる展覧会に続き、海外のアートコレクションから選んで日本に持ってきた、という企画のようです。今回はオーストリアのティッセン・ボルネミッサ現代美術財団コレクションからのようです。私は寡聞にして初めて知る団体ですが、なんでも、フランチェスカ・フォン・ハプスブルク、という、ハプスブルグ家の血を引く方が2002年に設立した団体のようです。つまりは貴族です。アートコレクションを支える団体、といのは、国家であったり、企業であったり財閥であったりすることが多いですが、貴族、というのは少なくとも森美術館では初めてなんではないでしょうか。貴族がかつて財にあかせて世界中の金銀財宝、珍品奇品を自分の城に並べさせたようにして、こんにちジム・ランビーの床のシマシマやサラ・ルーカスのウサギちゃん状の女性用ストッキングなどをコレクションしているというのはつまり、貴族が美術を購入するという伝統が彼らにとっては近代以後も特に断絶なく連綿と続いているということなんだろうなと漠然と思いました。前近代の頃の貴族の珍品コレクション、と言ったらいわゆるヴンダー・カマー(驚異の部屋)の部屋ですが、そこに収められた、たとえば遠方の地で駆けまわっているらしい動物の剥製だったり、見たこともないような精巧な手工芸品の主な存在理由というのが、これまで見たことのないオブジェ/装置であること、であるとしたら、現代において彼らの末裔がやっていることともある意味一貫しているのかな、とは思いました。見たことのないもの、というのはつまり知覚の拡張をもたらすものとも言えるので、まぁ、ヴンダー・カマーに万華鏡があったかどうかは知りませんが、万華鏡の知覚、が今回のテーマとなっているのも少しうなづけるかなと思いました、少々強引ながら。
昨年のUBSアートコレクションの場合は、なんと言っても銀行なわけですから、著名な現代アーティストの「有名になったあとの」つまりかなり高価になってからの、ちょっと微妙な作品が多かったような印象が残っています。あと、オフィスにアートを、と言って、オフィスに飾れるような写真作品とかに焦点があった気がします。つまりは投資対象/インテリアとしての現代アートでした。一方で、今回のティッセン・ボルネミッサ現代美術財団コレクションからの作品は、インスタレーションや映像が多かったので、インテリアにしにくいですし、簡単に譲渡できる形態とも限らないので、投資の対象というわけでもなさそうで、きっとフランチェスカ・フォン・ハプスブルクという方がこういった作品に理解のある方なんだろうなと思いました。
オラファー・エリアソン、カールステン・ニコライ、スゥ・ドゥーホーあたりはもはや巨匠なので、出ている作品もよそで見られるものと似ていましたが、Klaus Weber《Public Fountain LSD Hall》が一番浮いていて異様でした。噴水が置いてある、というほぼそれだけなのですが、流れる水にLSDが混ぜてある、とかで、その証明書というものも展示してあったのですが、これがまた胡散臭くて。公園の噴水にLSDを流してどうするのか知らないですが、ある意味この展覧会的には、「万華鏡の視覚」に一番近いものだったかもしれません、、、。

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あと、Los Carpinteros《Frio Esudio del Desastre》。ブロック塀が爆発する瞬間がそこに凍結されていて、ブロック塀の破片の大きいのから小さいものまでぜんぶ然るべき空中の位置にぶら下げてあり、それだけといえばそれだけですが、これを見た瞬間、これって映像じゃないか!と思いました。「瞬間」という概念が、ブロック塀を使って表象されている、わけです。制作過程でおそらく映像の一コマを利用しているだろうと思いますし、映像の普及以前には制作され得なかった作品だろうと思うので、そんな意味ですごく映像的だな、と思いました。

それくらいかなぁ、、あと蛍光灯が柱になっている作品とか。既製品の意味をずらしてくれるのは気持ちいいです。


まぁ全体的に今回は、衝撃的な作品が見られる展覧会、という感じではなくてむしろ貴族がこういった、本来はコレクションにしにくいとされる種類の現代美術をサポートしていることに敬意を表しつつ、帰途につきました。ちなみに、ティッセン・ボルネミッサ現代美術財団コレクションの公式サイトhttp://www.tba21.org/pressフランチェスカ・フォン・ハプスブルクさん、の写真が載っていました。コレクターがどんな顔をしているかなど本来はどうでもいいことですが、女優さんみたいでちょっとびっくりしたので載せときます。

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