水戸詣で

hanakoblog2010-01-09


水戸芸術館に「ヨーゼフ・ボイス展」を観に行ってきました。1984年に8日間来日していたときの模様を中心に紹介する展覧会で、レクチャーの記録映像を無編集で流し続けているほか、そのときの黒板がそのまま展示されていたり、パフォーマンスの模様を記録した映像や、来日時の関係者を中心に13人の人物にボイスについてインタビューした映像が延々と流れていて、これがまた長いので、一回の来館で映像を全部鑑賞するのは不可能のようでした。むろん、彼が日用品にサインをしただけの作品、などの代表作もみることができるので、かなり盛りだくさんでした。私は映像を全部みていない上、カタログも買っていないのでいろいろと見落としはあるかもしれませんが、思ったことは2点。
ひとつは、ボイスは来日当時、既に「過去の人」だったのではないか、ということ。ボイスが芸大でレクチャーをした模様を記録した映像では、ボイスに批判的な質問をする学生がいたり、会場からは野次が飛んでいたりして、ボイスと学生たちは思っていたより緊張感のあるやりとりを、していました。あと、パフォーマンスというのが草月会館でのナムジュン・パイクとのセッションだったのですが、マイクを持って意味不明な声を発していたり、して、60年代的なパフォーマンスでした。そしてこれが当時発行された『芸術新潮』で「古くさいパフォーマンス」とばっさり斬られていたりして、どうやら無条件に受け入れられていたわけでもないらしいことがわかります。もっとも、ある程度古い、というかエスタビリッシュされているからこそ西武美術館に招聘されて来日することも叶ったのだろうと考えられますが。むろん、一方でボイスに熱狂する人も居たわけなので、今回の展示でそういうところばかり見せることもできたのに、敢えて「ノーカット」で提示したその展示方法はかえって誠実であるように思えました。

ふたつめはボイスの作品自体についてで、ソーダ瓶や黒板消し、ハガキなど(このへんのオブジェはうろ覚え)無数の日用品にサインをして制作していた「マルティプル」について。日用品にサイン、と言えばマルセル・デュシャンですが、便器に"R.Mutt"とサインするという行為にどうしても伴う演劇性、のようなものがボイスにはなくて、あくまでも直球、赤白帽にマジックペンで記名するのとさして変わらないような実直さでソーダ瓶に本名をサインする、のがボイスらしさなんだろうな、と思いました。